食道がんとは
食道粘膜表面にできるがんで、進行によって食道粘膜内にとどまる早期食道がん、粘膜下層まで達した表在食道がん、それより下層まで及んだ進行食道がんに分けられます。複数が同時にできることがあり、約半数のがんは食道中央部分にでき、次に多いのが胃に近い下部にできるがんです。
食道粘膜は薄いため進行しやすい傾向があります。進行すると周囲の気管や大動脈に浸潤し、食道壁内のリンパ管や血管に入り込んで全身に広がり、離れた場所にあるリンパ節や臓器に転移します。
早期発見によってお体への負担が少ない内視鏡による治療で治せる可能性が高くなります。進行すると侵襲の大きい手術が必要になりますので、早期発見が特に重要ながんです。
食道がんの症状
早期には自覚症状をほとんど起こさないため、早期発見には症状のない段階で受ける胃内視鏡検査が必要です。胃内視鏡検査は早期食道がんの発見と確定診断が唯一可能な検査であり、実際に早期食道がんは他の目的で偶然受けた胃内視鏡検査で発見されることがほとんどを占めています。食道がんのリスクは、喫煙経験がある、飲酒すると顔が赤くなる、逆流性食道炎を繰り返している場合に高くなるとされていますので、こうしたリスクがある方は症状がない段階で早めにご相談ください。
食道がんが進行し、ある程度大きくなると、飲み込む際の違和感、つかえ感、胸や背中の痛み、長引く咳、声のかすれ、体重減少などの症状が現れはじめます。呼吸器や喉の軽度な疾患と誤解して受診遅れると進行してしまいますので、こうした症状が続く場合にはできるだけ早く受診してください。
飲み込む際の違和感
飲み込む際にチクッとした痛みやしみる感じがある場合、食道がんの可能性があります。比較的早い段階で現れることがあり、一時的に生じて症状が消えてしまうことがありますので、すぐに治っても油断せずに早めに消化器内科を受診してください。
つかえ感
食道でがんが大きくなると、飲む込む際につかえるような感じがします。飲み込みにくくなって食事量が減り、体重が減少して気付くこともあります。がんが大きくなると食道が閉塞して水分を飲み込むこともできなくなる場合もあります。
胸や背中の痛み
がんが肺や背骨、大動脈などの周囲の組織に広がると、胸や背中に痛みを生じることがあります。
咳、声のかすれ
気管や気管支にがんが及ぶと咳が起こりやすくなります。声のかすれは、喉の声帯をコントロールする神経にがんが広がることで起こります。
食道がんの原因
日本人の食道がんは扁平上皮がんが多くなっています。このタイプのがんは喫煙や飲酒の関与が大きいことがわかっています。少量の飲酒で顔が赤くなる・動悸がする方は、アルコールを摂取した際に体内で生じる発がん物質のアセトアルデヒドを分解する酵素の活性が生まれつき低く、扁平上皮がんのリスクが高いとされています。喫煙習慣が加わるとさらにリスクが上昇します。他に、熱いものを好んで食べることもリスクになります。
他に、逆流性食道炎を繰り返すのも食道がんリスクになります。食道の炎症を繰り返すと食道粘膜が胃粘膜のようになる食道パレット上皮を発症し、食道がんリスクが上がってしまいます。
食道がんの検査
問診で症状などを詳しくうかがって、確定診断可能な検査を行います。食道がんの診断がされたら、適切な治療を行うために進行度を調べて治療方針を決定します。
確定診断のための検査
胃内視鏡検査は、胃だけでなく食道や十二指腸の粘膜も詳細に観察できます。また、検査中に疑わしい部分を発見した場合、その場で組織を採取できますので、病理検査を行って確定診断が可能です。
造影剤を用いたX線検査が行われる場合がありますが、微細ながんの発見が困難であり、ある程度大きいがんが発見された場合も確定診断のためには別途胃内視鏡検査を受ける必要があります。無駄な被ばくを避けるためにも最初から胃内視鏡検査を受けることが有効です。
当院では、がんの周囲に集まりやすい毛細血管の分布を確認できる特殊光を使ったNBIの観察などにより、通常光では発見が困難な微細で平坦な早期の食道がんの発見につなげています。
疑わしい部分が発見されたら検査中に組織を採取して、病理検査を行い、確定診断します。確定診断では、がん細胞の有無とがん細胞の種類などがわかります。
進行度を調べて治療方針を決定するための検査
食道がんと確定診断された場合は、CT検査、MRI検査、PET検査、超音波検査、超音波内視鏡検査などを行います。この検査で、がんが到達している深さ、周囲への浸潤、リンパ節や他の臓器への転移などの有無を確かめるための検査を行って、治療方針を決定します。
食道がんの治療
早期には内視鏡による手術が可能ですが、進行している場合は外科手術が必要になります。また、切除ができないケースでは化学放射線療法を行います。
早期の食道がんは内視鏡による手術と外科手術で根治性がほとんど変わらないため、侵襲が少なく回復も早い内視鏡による手術を行うことが多くなっています。ただし、早期でも、浸潤の状態、がんのサイズや数により外科手術や化学放射線療法が必要になる場合もあります。
外科手術は、がんのある位置によって術式が変わります。術後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)も含め、主治医と相談し、しっかり理解した上で最善の治療を選んでください。
文責:新家 卓郎 院長 【消化器内視鏡専門医・消化器病専門医・肝臓専門医、肝臓暫定指導医・総合内科専門医】