胃炎でお悩みの方へ
胃に炎症が起こっている状態で、急性胃炎と慢性胃炎に分けられます。主な症状はみぞおち付近の痛みや、吐き気・嘔吐であり、重症化した場合には吐血・下血(黒いタール便)、貧血などを起こすこともあります。
急性胃炎
風邪や食中毒から深刻な疾患の症状として起こっている可能性もあり、原因は多岐に渡ります。特に治療の必要なく数日で収まることもあります。ただし、急性胃炎でも多数の炎症や潰瘍が胃粘膜に生じて出血を起こす急性胃粘膜病変(AGML)などの場合には早急に適切な治療が必要になります。明らかな原因がわかる場合は原因に合わせた治療を行いますが、原因がわからない場合には検査を行う必要があります。
慢性胃炎
慢性胃炎は数か月から数年単位で胃の炎症が続いている状態です。症状が改善しては再発を繰り返す場合も含まれます。慢性胃炎の症状は軽度のことも多いのですが、症状の内容や強さでは胃がんをはじめとする幅広い疾患との鑑別ができないため、胃内視鏡検査を行い、所見や疑わしい部分の組織を採取して病理検査を行った上で確定診断します。
胃の慢性的な炎症が続くと胃の細胞に遺伝子異常が起きやすくなり、それが積み重なると細胞が癌化して胃がんが発生するとされています。胃がんだった場合、治療が遅れると進行してしまう可能性が高いため、まずは胃がんの可能性がないかをしっかり調べることが重要です。
また、胃がんリスクを下げるためにも、慢性胃炎の適切な治療を受けて再発を防ぐことは大切です。特にピロリ菌に感染している場合、慢性胃炎を繰り返して胃がんリスクが大幅に上昇する萎縮性胃炎に進行する可能性があります。胃内視鏡検査では、組織を採取してピロリ菌感染の有無を確かめる検査も可能です。陽性だった場合は、除菌治療によってリスクを下げることができます。胃炎の症状でお悩みの場合や、気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。
胃炎の症状とは
胃炎の症状から診断される場合は症候性胃炎と呼ばれます。症候性胃炎には、胃粘膜の炎症や潰瘍、ポリープなどの病変がある場合と、内視鏡検査では異常が見られず機能的な問題で症状が起こっている場合があります。
病変がなく胃炎の症状が続く場合、以前は神経性胃炎とされて効果的な治療法がなかったのですが、最近はそうした病態を機能性ディスペプシアと診断し、消化器内科では適切な治療ができるようになってきています。
病変という器質的な問題がないため軽視されることもありますが、つらい症状が続きますのでお悩みがありましたらお気軽にご相談ください。
急性胃炎の主な症状
- 胸焼け
- 吐き気
- 胃痛
- みぞおちの痛み
- 腹部の不快感
- 膨満感
- 下血
(黒いタール便)
慢性胃炎の主な症状
- 胸焼け
- 吐き気
- 胃のむかつき
- 胃が重い
- 胃痛
- 食欲不振
- 腹部膨満感
上記のような症状がある場合には、できるだけ早く消化器内科を受診してください。特に慢性胃炎は無症状のまま軽い炎症が続いている場合があります。また一時的に症状が起こっては解消するのを繰り返すこともあります。気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。
胃炎の原因
急性胃炎
非ステロイド系消炎鎮痛薬やステロイドの副作用によって胃が荒れ、急性胃炎を発症することがよくあります。こうした薬を処方されていて急に胃の痛みなどの症状が起こった場合には、処方を変更するなどによって解消が可能です。
他に、過剰なアルコール摂取、心身への強いストレス、過度な喫煙、アニサキス症、風邪、食中毒など急性胃炎の原因は多岐に渡ります。
慢性胃炎(萎縮性胃炎)
慢性胃炎の炎症はほとんど症状を起こさないまま緩やかに進行することが多く、知らない間に胃がん発症リスクの高い萎縮性胃炎になっていることもあります。ピロリ菌を除菌することで炎症の再発を大幅に抑えることができるため、陽性の場合には除菌治療をおすすめしています。
また、自己免疫性胃炎も長期間無症状のまま進行して萎縮性胃炎を発症する可能性があるため注意が必要です。自己免疫性胃炎では、ビタミンB12や鉄の吸収に問題が起こって貧血などの症状を起こすことがあります。消化器内科以外では診断が難しいため、疑わしい場合には一度ご相談ください。
ピロリ菌と慢性胃炎
胃がんは慢性胃炎との関連が深く、特にピロリ菌に感染していると持続的な炎症が起こるため遺伝子異常が重なって細胞ががん化する可能性が高くなり、一部ががん貸して増殖し、胃がんを発症すると考えられています。
ウイルス性肝炎と肝がん、逆流性食道炎と食道がんなどの例でもわかるように、慢性的な炎症はがん発症のリスクを上昇させます。実際に、ピロリ菌に感染したことがない胃粘膜がかん化する可能性は1%以下とされています。特に慢性胃炎が進行して胃粘膜が萎縮する萎縮性胃炎を発症すると胃がん発症のリスクが大幅に上昇してしまいます。慢性胃炎の炎症をしっかり治し、ピロリ菌の除菌治療を成功させることで炎症の再発率を大きく下げることができます。無症状の場合にも陽性の場合には除菌治療をおすすめしています。
ピロリ菌感染の有無を調べることは、将来の胃がんリスクを判断するためにも役立ちます。また、胃炎の進行状態もリスクに大きく関与するため、胃内視鏡検査はリスク評価にも有効です。
胃炎の検査方法
急性胃炎の場合には、問診で症状や既往症、飲んでいる薬、発症する前の食事、日頃の食習慣、海外渡航などについてうかがいます。暴飲暴食など明らかな原因がわかる場合には原因に合わせた治療を行いますが、原因がわからない場合やアニサキス症などが疑われる場合には胃内視鏡検査を行います。
慢性胃炎の場合には、問診後に胃内視鏡検査を行って胃粘膜の状態を確認します。疑わしい病変が発見された場合には組織を採取して病理検査を行い、確定診断します。所見や診断に合わせて適切な治療を行いますが、ピロリ菌感染の有無を調べる検査もあわせて行い、陽性の場合には除菌治療をおすすめしています。慢性的な炎症がある場合には、炎症の状態を診断してできるだけ早期に適切な治療を行い、再発を防ぐことが重要です。
当院では最新の内視鏡システムやスコープを導入し、日本消化器内視鏡学会専門医である院長が内視鏡検査を行っています。精度が高く楽に受けていただける検査を行っていますので安心してご相談ください。将来の健康やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を守るためにも、気になる症状がある場合には早めの受診をおすすめします。
胃炎の治療
薬物療法を中心に、ピロリ菌感染陽性の場合は除菌治療を行います。また再発を予防するためにも、生活習慣の見直しも重要です。
薬物療法
胃酸分泌抑制薬や胃粘膜を保護する薬などにより、症状が比較的短期間に改善できる場合がほとんどを占めます。患者さんの病状や体質、ライフスタイルなどに合わせたきめ細かい処方を行っています。症状自体は市販薬でも解消できることが多いのですが、炎症を治すまでには至らず再発を繰り返して炎症が進行してしまうケースが多いため、症状を繰り返す場合には消化器内科で専門的な検査や治療を受けるようにしてください。
ピロリ菌除菌治療
ピロリ菌感染が原因で生じている慢性胃炎では、ピロリ菌の除菌治療が有効です。2種類の抗生物質と、その効果を高める胃酸分泌抑制薬を朝夕2回、1週間服用する治療です。除菌治療により70~80%の方は除菌に成功しますが、失敗することもあります、その場合には抗生物質を1種類変更して行う2回目の除菌治療が可能です。2回目までの除菌治療で約90%の除菌が成功するとされています。除菌に成功すると炎症の再発率を大幅に低下させることができます。
生活習慣の改善
過度な飲酒、喫煙、刺激の強い香辛料、カフェイン、過食や偏食を控え、栄養バランスが取れた食事を規則正しくとるよう心がけます。また、適度な運動や良質な睡眠も重要です。消化器の機能は自律神経によってコントロールされているため、ストレスをできるだけ上手に解消してください。
よくある質問
ピロリ菌の感染の有無を調べる検査にはどんなものがありますか?
内視鏡で組織を採取して調べる方法とそれ以外に大きく分けられます。また、ピロリ菌そのものを調べる検査、ピロリ菌に対する免疫反応を調べる検査、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素の働きを検出する検査があります。保険適用のピロリ菌検査は、胃内視鏡検査を受けて慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍を確認することが必須条件になっています。それ以外の場合には、保険適用されず、自費診療になります。
ピロリ菌除菌治療で除菌は可能ですか?
治療は失敗することがあり、1回目の除菌成功率は70~80%とされています。失敗した場合には薬を変更して2回目の除菌治療が可能であり、2回目までの検査によってほとんどの場合は除菌に成功します。内視鏡検査で慢性胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍と診断され、ピロリ菌感染検査が陽性の場合、2回目までの除菌治療が保険適用されます。
慢性胃炎から胃がんに進行するリスクはどのくらいですか?
胃がんの方のほとんどはピロリ菌感染陽性であることが大規模な調査でわかっています。ただし、陽性だから必ず胃がんを発症するわけではありません。ピロリ菌陽性者のおよそ3%が胃がんになるという報告や、除菌治療に成功した場合は胃がん発症率が1/3に抑えられたとする報告などがあります。
文責:新家 卓郎 院長 【消化器内視鏡専門医・消化器病専門医・肝臓専門医、肝臓暫定指導医・総合内科専門医】